第2章 …なぁ。俺達、どこかで会ったか?
姉鷺の運転する車で、俺達が事務所に着いた頃には 辺りは既に真っ暗になっていた。そして、さすがに中崎の姿はなかった。
「もう帰ったみたいだね」
「よかった。あのまま徹夜に缶詰じゃ、体壊しかねないからね」
「……そうだな」
「甘いわねアンタ達」
そう言って姉鷺は、防音室の扉を指差した。
その扉を ゆっくり少しだけ開くと。中からはピアノの音が漏れてくる。
「作曲作業に入ったらしい」
「うん。そうみたい。無我夢中で鍵盤叩いてる」
「……良かったじゃねぇか。順調に進んでるみたいでな。じゃあ俺は帰」
「あぁ、私心配だわぁ。ちゃんとご飯食べてるのかしらっ。睡眠は全く取っていないみたいだし…。あぁ、可愛い後輩が心配で心配で胸が押しつぶされそう!」チラ
俺達に何かを期待するような眼差しを向けてくる姉鷺。
「心配なら、姉鷺さんが彼に何かしてあげたらどうですか?」
天が正論を投げる。
「そうだ。ああいう優男、お前好みだろ」
「あら楽、ヤキモチ?」
「「ヤキモチだ」」
「なんなんだお前らは本当に!!あーもう俺は帰るぞ!」
ニヤニヤした顔をこちらに向けてくる3人を無視して、俺は防音室に背を向けた。
「…じゃあボクもそろそろ帰るよ。お疲れ様」
「え、天も?そっか…うん。じゃあ俺も、帰ろうかな」
どうやら2人も、俺に倣って 今から帰宅をするらしい。
「あーら、随分と冷たいのねぇ。3人とも」