第16章 泣いてなんて、ないよ
「なーんか騒がしいなぁ。どしたの…、っと。こんな時間にお客さん?」
「あ、ヤマさん」
ナギと壮五の2人と、入れ替わりでやってきたのは…二階堂 大和だ。たしかIDOLiSH7のリーダーで最年長の男。
彼とは面識こそないが、一度だけ遠目で姿を確認し合った事があるはずだ。
たしかあれは…私が、初めて環を迎えに来た時。寮の窓から、こちらを確認するように窺い見つめていた男こそ…。きっと、この大和だ。
眼鏡の奥から、鋭い目がこちらを見つめる。
「…あれ、近くで見ると…。こないだの俺らのライブ観に来てくれてた人じゃないですか?」
『!!』
覚えていたのか。いくら観客があれだけ少なかったとは言え、私が見ていたのは ステージから最も遠い入り口付近。よく見えていたな、と感心してしまう。
「何言ってんのヤマさん。そんなわけ」
『その通りです』
「はぁーーー!?」
「ええっ!?」
私がIDOLiSH7のファーストライブを見ていたと知り、驚く環と紡。
「はは、ほらやっぱり。女みたいに綺麗な顔だと思ったから、よく覚えてたんすよねぇ…」
『………』
この、人を探るような 粘っこい視線。頭の良さそうなこの男が…私は苦手だ。
しかし、なんだろう。この大和という男の顔には、酷く既視感がある。気のせいか?
私は頭の中の記憶を手繰り、今まで出会ってきた業界の人物と照らし合わせていく。
「ちょ、なんだよあんた、俺らのライブ見に来てたのか!そんな大事な事、なんでもっと早く言わねえんだよ!!」
「ま、まさかTRIGGERのプロデューサーさんが、IDOLiSH7のライブを観に来てくれていたなんて、全然気が付きませんでした…!」
大和と似た男を思い出そうとする作業は、2人の大声によって中断させられた。