第16章 泣いてなんて、ないよ
こんな2人のやりとりは、おそらく日常茶飯事なのだろう。周りのみんなも、またか。という目で優しく見守っている。
私もそんな微笑ましい彼らの姿を見て、心が和む…と、言いたいところなのだが。
未だに、ナギの視線が痛いほどこちらに向けられているのだ。
じーーっと食い入るように凝視されていて、座りが悪い。
なんだろう。彼とは面識はないはずだ。まさか、私の正体 もしくは性別に気が付いたのか?それならばまずい。一刻も早くここを立ち去った方が良いだろう。
との考えに至った、ちょうどその時。
ついにナギは、動き出す。
私の両手を、自らの手で包み込んだのだ。
『ひ、!?』
突如として情熱的に手を握られて、情けない声を上げてしまう。
「ナ、ナギさん!?」
「ナギくん!?」
「ちょっとナギっち!何してんの!!」
環も壮五も紡も、ナギの奇行に驚きの声を上げる。
しかし彼は手を離すどころか より強く握り込み、なんと甘い言葉を発し始めるのだ。
「OH…、ワタシは 神に感謝致します。タマキが不良に成り下がったオカゲで、あなたという女神に出会えたのですから」
「いや成り下がってねぇし、手ぇはなせよー!」
冷たい目でナギを見る環。しかし彼は当然、そんなものは意に介さない。
それどころか、どんどん距離を詰めてくる。私は出来る限り後ろへ仰け反る。しかし逃すまいと片手を腰の後ろに回して、もっと顔を近づけてくるのだ。
環が強引に引き剥がそうとするが、微動だにしない。
なんだ彼は!一体何がしたいのだ!意味が分からない!
自分で何とかしようにも、まさか他所様のアイドルに手を上げるわけにはいかない。
あぁでも、頭の中でイメージが出来上がってしまう。ますばこの手を捻ってから、即座に後ろを向き、そのデカイ図体を背中全体に乗せて一本背負いに…
やばい、本当にもう体が動いてしまいそうだ!
「これは、神のおみちびきです…。
このような夜更けに、アナタのような麗しいプリンセスに出逢えるなど…」
『は、はい?』
「さぁ、こちらへ。外はもう暗闇。危険です。邪悪なモノ達の暗躍する時間ですよ?
遠慮はいりません。ワタシの部屋へどうぞ。共に、素敵な時間を過ごしましょう」