第16章 泣いてなんて、ないよ
もはや流れるような動作で、互いの名刺を交換する。
「あのTRIGGERのプロデューサーさん…!
壮五さんから聞き及んではいましたが、本当にアイドルみたいな方なんですね!とても格好良くいらして、驚きました!」
大きなくりくりの瞳が私を見上げている。
『いえいえ、言い過ぎですよ。あはは』
私は営業用の微笑みを爆発させる。
「そうだぞ!えりりんは格好良いんじゃなくて可愛いん」
『そんな事より!』
私は環がいらぬ事を言う前に、紡と名乗った女の子に向き直る。
『こんな遅くまで 御社の大切なタレントを連れ回してしまい、申し訳ありませんでした。
今後は、このような事がないように時間と場所に配慮致しますので、どうか情状酌量の余地を』
「ま、待って下さい!中崎さん!そんなに謝らないで下さいっ」
玄関先でワーワーやっていたからだろう。寮の中からIDOLiSH7のメンバーがこちらへ集まって来てしまう。
まず、目を引くのが金髪の彼。彼はたしか…、六弥ナギだ。
変装中の私と同じ、金髪碧眼。しかし本物である彼と比べれば、私などただの偽物だと思い知らされてしまう。
それくらいに完璧な容姿。王子様…。いや、ヨーロッパかどこかの、男性像の彫刻を思い起こさせる。
そんな芸術品と見紛う美しい瞳は、じっとこちらを捉えている。が、口は固く閉ざされたままだ。
こちらから挨拶をしようか、と思った矢先。聞いた事のある声が、私の名を呼ぶ。
「中崎さん!どうして、こんな時間にここに…」
『あぁ、逢坂さん。こんばんは。どうもご無沙汰してます』
ナギの後ろから現れたのは、すでに面識のある、逢坂 壮五。
「こんばんは。あの…もしかしてまた、環くんがご迷惑をかけましたか?急に寮を飛び出してしまって、全然帰ってこないから全員で探しに行くところだったんです。
中崎さんが、彼を連れて帰って下さったんですか?
度々、うちの子がご面倒を」
「もー!そーちゃん!だから、そのお母さんみたいなのやめろって!」