第16章 泣いてなんて、ないよ
「信じらんねー!あんたは、そーちゃんとおんなじで、賢いのに馬鹿だな!」
『なっ、それどういう』
「ちっとは男心勉強しろよ!」
男心…。私が首を傾げた時、カウンターの下から、にゅっとマスターが生えた。
『うわぁ!!』
「中崎様は、たしかに些か鈍感な部分がおありのようで」
『い、いや、それは良いんですけど…もうちょっと登場の仕方を考えて下さい…』
マスターは、私の訴えには丸きり耳を貸さず。何事も無かったかのように丁寧な手付きでグラスを磨いている。
「いえ…
鈍感になってしまった。と言う方が正しいのかもしれません。
貴女は2年前の事があってからというもの、人と距離を置く癖をつけてしまった。
そのおかげで、今でも貴女の正体は公にはなっていません。しかし…
他人の “ 本心 ” が見えなくなってしまったのでは?
駄目ですよ。優しく心に触れようとしてくれている人の手を、むやみに振り払っては」
環が腕を組んで目を閉じる。そしてマスターの言葉に便乗するように、うんうんと頷いた。どうやら彼も、そんなイメージを私に伝えたかったらしい。
改めて、環とマスターがくれた言葉を真剣に受け止め、しっかりと考えてみる。
『…TRIGGERの3人は、私の事を…好いて、くれてるのかな』
マスターが微笑む。
『仕事上、一緒にいると便利だとか…。私を利用してるとかじゃない、のかな。
もし用済みになったら、簡単に、捨てられるんじゃ…』
「はあ?誰かにそんなこと言われたのかよ」
いや、違う。それは、私が勝手にそう思っていただけだ。
そう思われていると想像するだけで怖くて。彼らの本心を知るのが怖くて。
距離を、とって…。
『じゃあ、九条さんが タマちゃんにあんなふうに強く怒ったのって…』
「…あー、あんなのは ただの
ヤキモチ。ってやつ」