第16章 泣いてなんて、ないよ
長々とした台詞が終わると、環は目をぱちぱちさせた。
「い…いや!俺は別にそんな、すげー事はしてねっつーか」
『お、そこで謙遜かー。タマちゃんは大人だねぇ』
なんだか恥ずかしくなって、おちゃらけて見せる。でも環は、私とは対照的に真剣な眼差しをこちらに向けた。
「…もしもえりりんが、そんなふうに誰かに救われたって気持ちになったんだとしたら。
それは、多分、俺だけじゃくて むしろTRIGGERの人らのおかげだと思う」
唐突に話に駆り出された、3人の顔を思い浮かべる。
「さっきの、てんてん見てたら…そう思った」
さっきの天…。もしかしなくても環の言うそれは、八乙女プロ ロビーでのやり取りだろうか?
『え…っと、あの人、怒ってただけじゃなかった?それが、どう繋がれば私の心を救ってた…になるのかな』
私をTRIGGERのプロデューサーなのだからと言って、環が会いに来る事すら許さなかった。プライベートよりも、自分達を優先しろ。と彼は主張した。
環は、天のこの言動のどこに 救い を見出したのだろう。
「分かってねーな。えりりんは。
嫌いだから怒ったんじゃなくて、“ 好きだから ” 怒ったんだ」
『……え?』
「なんで分かんねーの!!
てんてんが、いきなし 引き抜きだとか、訳分かんねー事言い出したのも、俺にえりりんを取られたくなかったからだろ!」
環は、なかなか自分の気持ちを察しない私に苛立っているようだ。
『待って待って。でもね、あの3人は、私の事をまるでおもちゃみたいに扱うよ?めっちゃちょっかい出してくるんだから!』
「それって、一緒に遊びたいからじゃね?」
『…自分達の仕事は終わったはずなのに、ずっと私の周りをうろうろして邪魔してくるし!』
「そんなの、好きだから仕事終わっても えりりんと一緒にいたいだけじゃん」
『……でも、でも…。私の大切な友達であるタマちゃんに、あんな酷い言い方するし』
環は、信じられないという表情で溜息を吐く。