第16章 泣いてなんて、ないよ
「そ、それ、もう治んねーの!?薬とか…手術とかでさ!」
予想通り、悲痛な顔をこちらへ向ける環。
彼にはこんな顔をして欲しくなかったから、話すのを躊躇っていた部分も大きい。
『治療も手術も、あるには あるんだけどね。たしかに手術でもすれば多少は良くなるかも。
でもやっぱり、歌手って職業は 特に繊細な声帯が必要だから…。少し改善したくらいじゃ、私が登りたい域には到達出来ないんだ。
一生』
「っ、」
環は、より深い皺を眉間に刻みつけて、私の体を搔き抱いた。
こうも、ぎゅうっと強い力で抱き締められては、息をするのも難しい。
『タマちゃん…。ありがとう。でも、でもね。私なら大丈夫だから』
そう。私は2年をかけて、もうとっくに乗り越えた。
私は、大丈夫。
大丈夫。
大丈夫だ。
「大丈夫じゃねーくせに、大丈夫って言うな」
『!!』
背中に回った腕が、より強い力で私を引き寄せる。
「…優しい奴は、皆んなそうだ。
全然大丈夫じゃねぇのに、自分は大丈夫だって嘘つくじゃん。そんなふうに、俺の為に安心させよーって思って貰っても…俺は全然嬉しくねーから」
私は、環の背中に腕を回して。両手で彼のシャツをくしゃっと掴む。
『嘘だって、分かってるんだったら…。騙されてくれないと、困るよ。タマちゃん』
そんなふうに見抜かれたら、どうして良いのか分からない。どう言っていいのか分からない。
お願いだから、私の傷がまだ癒えていない事に、気付かないでよ。