第16章 泣いてなんて、ないよ
いや、しかし流石に…。
「………」
流石に聴きすぎだろう。
リピート再生で繰り返される音源は、もう何周目か分からない。しかし環は 相変わらずの集中力で 一度たりとも目を開ける事すらしない。
それに、さらに驚くべきは、壮五。このCDの持ち主である彼は、もう嫌という程 これを聴いている事が予想されるが。
環に並んで 幸せそうに音楽に耳を傾けて続けている。一体どれだけLioに心酔してりゃあそうなるのか…。
「えっと、そろそろお兄さんは お部屋に戻ろっかなぁ」
そろりと立ち上がり、お先にお暇しようとした。その時だ。
環が瞳を閉じたまま、口だけを開く。
「そーちゃんはさ…。なんで、Lioは 歌うのやめたんだと思う?」
部屋を出ようとしていた足を止め、壮五がどう答えるのか なんとなく俺も気になって。立ったまま返答を待つ。
「それは、僕もよく考えるんだ。でもね、やっぱりどれだけ考えても答えは出ない」
そりゃそうだ。壮五は ただCDの所有者というだけでありLioの関係者じゃない。
環の質問に答えられるのは、きっと本人だけだろう。
「でも、僕にも分かる事は あるよ。
きっとLioは ステージに立つのが大好きで。この日、最高の気分を ここで味わったんだろうなって。
きっと、歌やダンスが嫌いになってステージを降りたわけじゃない。これだけの拍手や喝采を浴びて、アイドルをやめようなんて、思うはずがないって。
だからこそ…僕はいつも願うんだ。
どうか彼女が、怪我や病気で アイドルを辞めざるを得ない状況にだけは、なってませんようにって」