第16章 泣いてなんて、ないよ
相変わらず、整理整頓の行き届いた部屋だ。Lioのライブ音源鑑賞会に、自分の部屋を選んだ壮五の選択にも頷ける。
きっと環の散らかった部屋では、落ち着いて聴く事は叶わなかっただろう。
「早く早くっ!」
壮五を焦らせる環。
「分かってるよ、ちょっと待って」
CDを扱う手つきを見れば、いかに壮五が普段からこのディスクを大切に扱っているのかが分かる。
そして、ついにそれはデッキの中へと静かに吸い込まれた。
収録されていた楽曲は、4曲。
正直、Lioの実力がここまでとは思っていなかった。
噂とは、広がる程に尾ひれが付いて大きくなっていくもので。
実際はそこまで凄くなくても、いつの間にかオーバーな物語に成長している。なんてのは、この世界に限らず よくある話だ。
しかし、彼女に限ってはその常套も通じないらしい。
ここまで安定したパフォーマンスが、デビューライブで披露出来るものなのだろうか。歌唱力について突き詰めている途中の俺達だからこそ、この音源の凄さが分かる。
彼女は一体、この域まで到達するのに どれくらいの下積みと時間を要したのだろうか…。
「環くん…」
壮五がそう呟くまで、俺の頭からは環の事が抜け落ちてしまっていた。ついつい俺の方がLioにのめり込んでしまっていたのだ。
「——はは、やっぱLioは すげぇなタマー。どうだった?お前があそこまで興味持った奴の歌…、って。おい…」
隣で音源に耳を傾けていた環の顔を、初めて確認する。
すると どうだ。
環は、静かに 涙を流していた。