第16章 泣いてなんて、ないよ
「大和さん!よくぞ聞いてくれました!実は、あまり大きな声では言えないんですが…これ、Lioのファーストライブの音源なんです」
「!!」
「はっ!?」
差し出されたディスクを見て、喉から声が突いて出た。
「お、おいおい。マジですか…一体こんなもん、どうやって手に入れたんだよ」
もしこれが本物なら…。いや、壮五は冗談を言っている顔をしていない。きっとこれは本当にその音源。Lioの肉声が入っているのだろう。
これにどれほどの価値があるのか、考えるまでもない。今でも多くの芸能事務所が、これを喉から手が出る程欲しているはずだ。
いま俺達の目の前にあるブツは、それほどの代物。
「えっと、まぁ…、どうしても欲しくてですね。ちょっとコネを使っちゃいまして」
明らかに言葉を濁す壮五。視線も分かりやすく泳いでいる。
その “ コネ ” とやらは、きっと彼にとって触れて欲しくない話なのだろう。
そのコネクションが、今も生きているのか 切れているのかは置いておいても。俺にも話したくない裏事情があるのと同じで、きっと彼にも、触れて欲しくない部分があるのは明白。
「いや、悪い。お兄さん それ以上聞くの怖いわ。だからもう何も言うな。な?」
「そう言って貰えると、助かります」
俺と壮五の、そんな水面下での思慮など御構い無しに。環はまた、さきほどから度々 顔をのぞかせている執着を見せた。
「そーちゃん!!それ、俺にも聞かせて!
な?頼む!一生のお願い!」
「環くん…
勿論だよ環くん!今から聞こう!さぁ僕の部屋で一緒に!」
環の圧に、1ミリも押される事なく。壮五は何度も頷いた。
そんな流れで、環と壮五は 部屋へと移動するのだった。
「…MEZZO" は、何だかんだ仲良いなぁ。
ま、俺もこの際 ご相伴に預かりますか」
俺も当然のように、2人の背中を追う。