第16章 泣いてなんて、ないよ
「私も最初は信じられなくて、色々と考えてみたんですよ。例えば…
強いコネクション、もしくは後ろ盾が 彼女にはあった。など」
…たしかに、仮に親などが超有名人とかであれば、ファーストライブにマスコミや芸能関係者を多数呼び込む事は可能だろう。
そう。例えば、俺のように、両親が “ 超有名人 ” であれば。
「しかし、そんな強いコネを持っているなら。そもそも長い下積みを経る意味などないんですよ。とっととそのコネクションを使ってメジャーデビューしてしまえば良い話ですからね。
そう考えてこの仮説は破綻しました。
きっとLioは、自分自身の手で 人脈を集めたのでしょう。それが、どれだけ凄い事か分かりますか?
四葉さん。ちなみに私達のデビューライブの総観客人数は?」
環は、急に飛んで来た質問に対し、両手の指を折り折り数を数える。
「きゅ、9人…」
「はは。たしかに、比べると悲しくなってくるな」
「事務所のバックアップがあっても、ファーストライブはそれくらい難しいものです。それをLioは、会場を満席にしただけでなく…。出来る限りの芸能関係者をも掻き集めた。
スカウトマンは、Lioを品定めする為に ライブハウスへ赴いたのでしょう。しかし実際に品定めをしていたのは、彼女の方ではなかったのか。と、私は思っています。
きっと、自分自身を最も輝かせてくれる事務所と契約を結ぶ為に。
その類稀なる野心と、それを現実のものにしてしまえる セルフプロデュース能力の高さ。
それこそが、彼女の真髄なのでは?と私は常々考えていました」
自らの憶測を語り終えた一織は、最後にこう付け加えた。
出来る事なら彼女と直接会って、そのプロデュース力をご教授頂きたいものですね。と。
「…はぁ」
環は、今まで一織の話を前のめりになって聞いていたが。長い仮説を聞き終わると、脱力した様子でソファに背を預けた。
「すげーのな…。Lioって」