第16章 泣いてなんて、ないよ
環が一織に、ぐんっと近付いて至近距離から質問する。
その圧に一織も一瞬だけ怯んだように見えたが、すぐに自分が一歩後ろに引く事で環と距離を取った。
「私が最も彼女を評価すべきだと思う点は…、まずそのプロデュース能力です」
それだけ言って、一織は一旦 自室へと足を向ける。おそらく濡れた上着を脱いで、早く着替えてしまいたいのだろう。
しかし。環はそんな彼の背中のシャツを掴んだ。
「待って!いおりん。もっと、俺にLioの事 教えて」
さすがに一織も、この環には違和感を覚えざるを得ないらしい。瞳を大きく見開いて、足を止めている。
そもそも環が他人にここまで興味を示す事が珍しいし、それにしても執着が強い。一分でも一秒でも早く、Lioの事が知りたくて堪らない。そんな感じだ。
「わ、分かりましたから少し離れて下さい」
一織は、着替えを諦めてソファへ座る。俺と環もそれに倣って、再度 腰掛けた。
「これはあくまで、私個人の見解ですよ」
この前置きに、環は何度もコクコクと首を縦に振った。相変わらず目は爛々と輝いている。
「彼女は、アマチュアデビューこそしたものの、メジャーデビューは果たしていません。
と、いう事はです。
ファーストライブ時には、事務所やマネージャーは就いていなかった。従ってLioは…セルフプロデュースのみで、そのライブまで漕ぎ着けたんです。
まして、彼女はソロアイドル。たった一人で、資金運営に人脈形成、マネージメント、衣装や会場の手配。他にもきっと、大変な作業をこなしていたのでしょうね」
体力作りにボイトレ、ダンスなどのレッスン。忙しい中 合間を縫って それらをやってのけていた。それがいかに難しくて大変であるかは、今の俺達になら理解出来た。