第15章 俺…もしかしたら…、ホモなのかもしれない!
でも、俺は分かってた。
会う事に緊張しているのは、俺の方だけだって。
何故なら。彼からしてみれば、昨夜の出来事はただの仕事の一環だからだ。
俺が 性的な接触に少しでも慣れる事が出来れば、女性との絡み仕事も、ストレスなく行えるだろうという、彼の 優しさ。
情ではあっても、決して 愛情ではない。
「…春人くん、昨日は ありが」
『九条さんと八乙女さんは、既に車中で待機してますよ。私もデスクからパソコンを持って来たら すぐに向かいますので。
十さんも車内で待っていて下さい。では』
“ ありがとう ” すら言わせてくれないのは、やはり昨夜の事は忘れろ。というメッセージなのか。
「分かったよ。じゃあ、また後で」
俺が告げると、彼はこちらを一瞥すらしないで 仕事部屋に向かった。その背中を、名残惜しい気持ちで見送る。
あぁ。もっと、姿を見ていたかった。声を聞いていたかった。君の瞳に、俺を映していたかった。
「…この気持ちは、一体 何だ」
消え入りそうなこの声は、勿論 彼に届く事はない。
いつもと同じ社用車のドアが、昨日よりも重く感じる。
「…はぁ。おはよう」
「おはよう」
「なんだよ龍。朝から暗くないか?お前」
楽のその言葉を受けてから、初めて自分が溜息をついていたのだと気が付いた。
「ごめん…ちょっと、色々あって」
「色々?もしかして、昨日あいつと何かあったのか」
「なに。何の話?」
2人の視線が、俺に突き刺さる。自分を心配?してくれる仲間の言葉。
俺は、昨日からずっと一人で抱えていた気持ちが爆発する音を聞いた。
「俺…もしかしたら…、ホモなのかもしれない!」