第118章 Another Story
シングルサイズの布団に、二人はやはり狭い。しかしこうして彼の腕の中にいられれば、この狭ささえ嬉しかった。
「エリは、どんなベットが欲しい?」
『私に決定権を譲ってくれるの?』
「要相談、かな」
『シングルベット、二つとか?』
「ねぇ。どうしてそんなに寂しいこと言うの」
自分のすぐ斜め上にあった顔が、恨めしそうにこちらを見た。唇を尖らせた、そんな表情が見たかったから。なんて、口が裂けても言えない。
「ボクへの愛が足りてない」
『ついさっき九条さんの家で私の愛を確かめたくせに、よく言うね』
「足りない。もっと欲しいんだもん」
あまりの可愛らしさに、心臓がぎゅんと収縮した。それと同時に、腕枕をしてくれていた天が上へと来る。
私を見下ろす男には、可愛さなど微塵も感じられなかった。天の瞳の中にある光の粒が、きらりと光る。
「その為にはやっぱりボクが、まずキミへの愛を示すべきだ。そう思うでしょう?」
期待していたことを悟られたとしても、もうそんなことはどうでも良かった。彼の問いに対し、頷くという選択肢しか私は持ち得ていない。