第118章 Another Story
私は髪にバスタオルを押し付けながら、天を探す。彼はすぐに見つかった。
広いキッチンダイニングではなく、寝室にいた。どうしてこの部屋が寝室であると分かったのかというと、部屋の中央に、ひと組の布団が敷かれてあったからだ。
「こら。ドライヤーは?駄目でしょう。きちんと乾かしてから出てこないと」
『布団…』
「だって、ベットがまだないから。
ほら、そんなことよりもおいで。そのままじゃ風邪をひくよ」
天は私の手を引いて、脱衣所まで連行する。そしてドライヤーのスイッチを入れると、髪に温風をあて始めた。
天の白くて綺麗な指が、私の髪を梳いていく。そのあまりの心地良さに、うっとりと瞳を閉じた。
こうして欲しかったから、私は濡れ髪のままで天の前に出て行った。恥ずかしいから彼には内緒だけれど、きっともう気付いているだろう。
『天に乾かしてもらった方が、自分でするより仕上がりが綺麗なんだよね』
「この髪は、キミよりもボクの言うことをよくきいてくれるらしい。可愛いよね」
『髪の毛の裏切り者!私の髪のくせにー』
悪態を吐いてはみたものの、まぁ天の言うことであれば ききたくなってしまうのも無理はない。そう考え直したのであった。