第118章 Another Story
やって来たのは、都内の高層マンションであった。実際に間近に立って見上げてみると、頂上部分が確認出来ない。ガレージは広々としており、地下にあった。そして煌びやかなエントランスでは、コンシェルジュが恭(うやうや)しく頭を下げる。
エレベーターに乗り込み、天がボタンを押すのを待った。この流れからいくと、もしや住まいは最上階かとも思ったが、そんな目論見は外れたようだ。
『一番上じゃないんだ』
「最上階が良かったの?」
『ううん。あんまり高いところは困る』
「ふふ、知ってた」
天がカードをドアにスライドさせると、ロックが解除される。早速、彼は部屋を順番に案内してくれた。どの部屋も、まだほとんど間抜けの空だ。
「家具と家電は、一緒に揃えたいと思って」
『そうだね。買い物、楽しみだなぁ』
「気に入ってくれた?キミの新しい家になるわけだけど」
『うん!とても』
ここが二人の愛の巣というわけだ。なんて脳内で思い浮かべて、勝手に一人で頬を火照らせた。
「キッチンもまだ道具が揃ってないから、夕食はデリバリーを……って。なんで顔赤くしてるの」
『べ、べつに』
「…ふぅん。もしかして、えっちなことでも考えてた?」
『考えてないよ!ちょっとしか…』
「あははっ。もう、急ぎ過ぎ」
愉快そうに笑いながら、天は赤面する私の髪を撫で付けた。