第118章 Another Story
指を組みこちらを凝視する九条を、雷雲よりも黒く重苦しい雰囲気が包んでいる。そしてその横には、席を外すつもりなどさらさらない理が笑顔で鎮座している。暗黒界の魔王みたいな男の強面と、お花の妖精のような少女の底抜けの笑顔が並んでいるのは、非常にシュールだった。
果敢にもこの亜空間にまず斬り込もうとしたのは、天であった。話し合いが進みやすいよう、きっかけを作ろうというつもりだろう。しかし、出来ることなら彼の助けを借りずにこの場はやり切りたい。九条と対等に話し合いも出来ないままでは、良い関係を築けない。
『九条さん』
「僕達は全員 “九条” だけど。いま君は一体誰のことを呼んだん」
『九条鷹匡さんでお願いします!』
「ご指名どうも。じゃあ、続けて」
ぽっきりと折られてしまった話の腰を、全速力で立て直す。
『私、中崎エリと御子息の天さんは…少し前から、お付き合いをさせていただいております』
「……ふふふ。何を深刻そうに話し始めたかと思えば、そんな話だったとはね。改めて君に教えてもらわなくても知っているよ」
『え!ご存知、だったんですか』
「当たり前じゃないか。天を一時的とはいえ君に預けたのは僕だよ。思い返せば、もうあれから長い年月が経った…。君と天の付き合いも、それはそれは長」
『いや、あのっ、そういう付き合いではなく…!!』
私に出された飲み物は水道水。速攻で折られる話の腰。それらから鑑みるに、彼はわざととぼけているのだろう。よほど私が話の核心に触れるのが嫌だと見える。
しかし、私は刃はまだ折れていない!まだ戦える。と、心の中で剣を構え直した時、九条の隣の理が声を上げる。