第118章 Another Story
見兼ねた天が、すっと立ち上がる。おそらくだが、自分と同じ物を私にも用意してくれるつもりなのだろう。しかし、いま彼が席を離れれば私は九条と2人きりになってしまう。そうなるくらいなら、私は水道水であろうと喜んで一気飲みする覚悟だ。だから、どうか行かないでくれと私は天に叫んだ。勿論、心の中で。
その願いを聞き届けてくれたのは天ではない、まさかの人物だった。
「ふふっ。こんなイタズラ、九条さんはお茶目さんですね。はい、こっちが本当のえりりんのお茶です」
『あ、理ちゃん…!』
紅茶を持って現れたのは、九条 理であった。そうか。今日は彼女も在宅であったのか。いやそんなことよりも、彼女が言う “お茶目” で、私は心臓が止まりかけたのだが。
「はは。どうだったかな。少しばかり場を和ませようと、演出してみたんだよ」
今ので和むと思ったのなら、Haw9は舞台演出家を今すぐ下りるべきだ。なんて、口に出来るはずもない。