第116章 心、重ねて
『それくらい…衝撃だったんです。私にとって、あの景色は』
ファンに配られた、ホワイトカラーのリングライト。中には、小さなメモが同封されていた。
《 このライトを、Last Dimension の時に点灯させて 》
観客達は皆、そのお願いに応えてくれたというわけだ。信じられないくらい多くの人達の協力で、私の夢は叶えられた。
『まったく…あんな景色を見せてしまって。もしも私が、あの世界の虜になってしまったらどうするんですか』
この冗談交じりの言葉に、何故かメンバーは重苦しそうに黙り込む。予想外の反応に、私は思わずバックミラー越しに後ろの様子を伺った。
「そのことなんだけど…春人くんは、このままでいいの?」
『このまま、とは?』
「キミのことをベタ誉めしてたの、海外な有名なピアニストでしょう。そんな人に認められるくらいだから、プロデューサーが本気で望めば世界にだって通用するピアノ弾きになれる」
『……』
「3人で話し合ったことだ。もしも お前がアイドルとしてではなく何か別のかたちでステージに立ちたいと思うなら、俺達は本気で応援する」
楽は、お前の本心を聞かせて欲しい。そう続けた。
それは、考えなかったことではない。もうとっくに諦めていた、ステージ上から生で感じるライブの空気感。もう誰かに届けることなどないと思っていた音を、また奏でられたという幸福感。
それらにまた、手を伸ばしてみたいと思わなかったと言えば嘘になる。しかし。