第116章 心、重ねて
—— 武道館ライブ 数日後 ——
私達は、いつもの車でいつものように現場へと向かう。後部座席に座っている楽が、ライブレポが載った雑誌を広げていた。
「おい春人。あんたのピアノのこともしっかり載ってるぜ」
『へぇ、それはそれは。どんな辛辣な言葉が並んでいるのか、読むのが怖いですね』
「ふ、プロデューサーの嘘つき。良いことしか書かれてないだろって、自信満々の笑顔してる」
『いやまさか』
実は、その雑誌はもう既にチェック済みであった。だから私のピアノ生演奏が、有名ピアニストに絶賛されていたことは知っている。
加えて、アイドル4グループの合同武道館ライブが世間から好評だった旨も把握していた。まぁ、あれだけの面子が揃って全力を出し尽くしたのだ。大成功は当然の成り行きと言えよう。
「…っ、ふふ」
『龍…また、思い出し笑いしてるでしょう』
「あっ、聞こえちゃった?ごめん…」
「いや、龍は悪くねえよ。俺も、気を抜いたら笑っちまうからな」
『さすがに引っ張り過ぎでは』
「ボクも」
『天まで…』
彼らをまとめて思い出し笑い病の渦に引き込んだのは、何を隠そう私だった。
あの “白い光溢れる光景” を観た私は、その余韻から抜け出すのにかなりの時間を要した。それは3人の想像の遥か上を行っていたらしい。
なんとかステージから はける事は出来たものの、その後しばらくは脱け殻状態となってしまった。顔の前で手をひらひらさせても、体を揺すっても、頬を両側から押さえ付けても、何の反応も示さなかったらしい。
右手でピースサインを作り、そのまま私の両目を突いて意識を覚醒させてくれた了には感謝だ。