第116章 心、重ねて
俺を信じろ。大丈夫だから、ついて来てくれ。
いくら彼にそう言われたからって、私はどうかしてしまったのだろうか。
武道館ライブ本番真っ只中の、ステージ上をこの足で歩いているだなんて。
幸いなことに、舞台上はとても暗い。誰かが歩いていることくらいは観客にも見えているだろうが、それが誰なのかまでは伝わっていないだろう。
私はくらくらする頭で、ただ目の前の楽の背中を見失わないように付いていく。
間も無く、彼の足が止まる。
目の前にあったのは、一台のピアノ。
勿論、こんなものがライブで使用されるだなんて私は聞いていない。おそらくは、この暗闇に乗じてセリを使用し床へ上がって来ていたのだろう。
楽は、音を立てぬよう椅子を引く。そこへ私を座らせると、微笑みをひとつ残し天と龍之介の元へと戻っていった。
所定の場に戻った楽をスポットライトが照らし、それは3本の光柱となる。同時に、私の座る場所にもピアノごと淡い光が降り注いだ。ピアノを奏でるには、些か頼りない光である。
《 おっしゃ!準備が整ったぜ。ピアニストもやる気満々だ 》
《 本当に?良かった!皆んな お待たせ! 》
《 ふふ、ようやくだね。待ち侘びたよ。この瞬間を 》
3人が、ほんの瞬きの間、顔だけをこちらに向けて微笑む。それは、紛う事なき合図であった。
“ さぁ、行こう ”
心の中の、その声を
私は確かに聞いたのだ。
《 次の曲 》
《 TRIGGERで 》
《 Last Dimension 》