第116章 心、重ねて

観客の息をつかせぬまま、まずは1曲目を終えた。次の曲へと入る為、照明が絞られる。TRIGGERの2曲目は、代表曲である Last Dimension。お馴染みの楽曲を、バラード調で情緒たっぷりに歌い上げる。

仄暗いステージの中、スポットライトは3人だけを照らしながら束の間のMCタイムだ。しかし、思いもよらぬ事態が襲い来る。

3本伸びているはずのライトが、2本しか伸びていない。ドクリと脈打つ心臓を感じながら、ステージ上へと目を凝らす。天と龍之介はスポットライトの中に立っていたが、楽の姿が見当たらない。2人が落ち着いてトークで繋いでくれているのが唯一の救いだった。今の内に、トラブルの対処に当たらなくては。

私はネクタイを締め直し、一歩を踏み出そうとする。しかし、後ろから誰かが私の手を取り、力強く引き止めた。
驚き振り返ると、その相手が姉鷺であると知る。


『早く事に当たらないと』

「いいから。ほら、お迎えよ」

『は？』


意味が分からないのと、この状況で彼が笑っていることに苛立った。私はその手を振り払うように、大きく身をよじった。
が、こんな所にあるはずもない壁に私は顔をぶつける。いた、と鼻頭を押さえながら壁を見上げる。

それは、壁ではなく楽であった。


『ちょ、なんでステージから下りてるんですか！早くもどっ』

「分かってる。でも、ステージにはあんたも一緒に行くんだ。Lio」