第116章 心、重ねて
『まったく。何て馬鹿な真似をするんですか』
「プロデューサーの言う通り。千さんに対抗して、あんなモノマネをするなんて信じられな」
『私があんな馬鹿みたいに “ぐぅ” などという寝息を立てるはずないでしょう』
「え?そこなんだ」
天と私は、顔を見合わせる。
「いや、お前わりと言うぞ。ぐぅって」
『嘘でしょう?』
「春人くん。えっと、残念だけど…わりと言ってる」
『えぇー…』
龍之介と楽の顔を交互に見て、落胆の声を漏らした。そんな私の声を上から消すように、また部屋の扉が叩かれる。今までで1番、淑やかなノックだ。
「そろそろ時間よ。袖に集まってちょうだい」
そう、姉鷺はいつになく深い声で告げた。TRIGGERの3人がそれに対ししっかり頷くと、また感慨深い声をこぼす。
「いよいよ、なのね…」
「なんだ姉鷺、泣いてんのか?意外と可愛いとこあるじゃねえか」
「褒めてもらえて光栄だけど、泣いてないわよ。今のところはね」
言いつつも、ただ…と言葉を続ける。
「遂にここまで来たんだって思うと、やっぱり心に来るものがあるのよ」
「姉鷺さん…」
姉鷺の感動に呼応するように、龍之介も熱く胸を震わせているようだ。そんな2人を、リーダーである楽が笑顔で鼓舞する。そして、天が彼らに歩み寄った。
「姉鷺さん。ボク達の終着点はここじゃない。確かに今日はターニングポイントではありますけど。TRIGGERは、もっと、もっと先に進んで行きますから。これからも、どうかボク達を支えてください。よろしくお願いします」
その言葉に、姉鷺は遂に落涙した。震える背中に、3人が優しく手を添え包み込む。
私は彼らには近付かず、少し離れた場所からその光景を見つめていた。油断をすると、私まで涙をもらってしまいそうだったから。