第116章 心、重ねて
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今日という、大切な日。にも関わらず、私の眉間には深い深い皺が刻み込まれていた。隣に座っていた万理が、息を噴き出して その皺をぐりぐりと指先で伸ばす。
「っぶは…!お前、その顔。せっかくの美人が台無しだぞ」
『裏切り者は黙ってください。そして触らないでください』
「ありゃ。割と本気でヘソ曲げてる」
すると今度は、目の前に座る宇都木士郎が申し訳なさそうに顔を傾け告げる。
「大神さんが裏切り者ということでしたら、差し詰め私は実行犯辺りに該当しちゃいますか?」
『そうですね。ですが、情報提供ならいつでも受け付けていますよ?内容いかんによっては、減罰減刑も考慮しましょう』
「あ、すみません。それは無理な相談です』
そう簡単に口を割るなら、最初から私に黙って実行などしていないだろう。彼は絶対に、どんな拷問をしても吐かない。なので、彼よりは口を割ってくれそうな2人に目を向ける。その2人とは、紡と凛人。ジト目を向けられた彼らは、ギクリと肩を震わせた。
「す、すみません!私からは、その、なんとも…っ!」
「僕もお力にはなれませんよ!?もしバラしたら、前髪をセンター分けにしてやると あの2人から脅されているんです!」
どうやらこの2人にも “首謀者達” によって、固く箝口令が敷かれているらしい。
4人全員、揃って固く口を閉ざしてしまった現状に、諦めのため息を吐く他なかった。
私は今回、責任者として本ライブにおける全てを把握している気になっていた。ところがどうだ。続々と集まる来場者全員に、プレゼントと称して手のひらサイズの黒い包みが配られているではないか。私はその光景を前に、吐きそうになるぐらい驚いた。
小耳に挟んだのは、これを企てたのはアイドル達16人とのこと。そして実際に手配をしたのは、士郎をはじめとしたここにいるマネズらしい。
そう。知らなかったのは、私だけ。ヘソを曲げたくもなるというものだ。