第116章 心、重ねて
結局は、公表されることすらなかった そのイメージカラー。私の歌を聴いてくれる本人に、色のイメージを持って欲しいと、最も先入観を与えない淡白な色を選んだ。
でも今となっては、白こそが私に似合いの色だと思っている。空っぽで、何もない、寂しい色。
「何者にでもなれる」
『え?』
「これから先、どんな色にだって染まることが出来る。とてもキミに相応しい色だと思うよ」
世界においていかれた、寂しい色だと思っていた。しかし天使のような彼にこう言われて、それを好きにならないことなどありえない。
『…ありがとう。私も、お気に入りです。白色。まぁ、黒も格好良くて捨て難いですけどね』
「黒王子だから?」
『ははっ、それ懐かしい!』
思い出話なら、ここでなくとも出来る。名残惜しいが、この特別な場所からそろそろ離れようと提案しようとしたところに、天が微笑み 問う。
「何者にでもなれたキミが、TRIGGERのプロデューサーとしてボクらの隣にいるけれど。そんなキミに、訊きたいことがある」
『どうぞ。この場所で、嘘は吐けません。本心で答えましょう』
「… “今のキミ” の、夢を教えて」
本心を伝えるだけだから、考える時間なんて必要ない。
『昔は、私がアイドルとしてこの場所に立って歌い踊ることでした。でも今は、違います。
私の代わりに、TRIGGERが、貴方達が歌で皆んなを幸せにするところが見たい』
言葉の全部を心に染み込ませるように、天は美しい瞳を閉じる。やがて徐々に瞼を持ち上げて、言葉を紡ぐ。
「プロデューサー。ボク達が、キミをステージに連れて行く。キミが今まで積み上げ来たもの全てを持っていく。キミの人生を、全部。
キミの見た夢を、蕾のまま枯れさせたりなんて絶対にしないから」