第116章 心、重ねて
平気ですと。ありがとうと、そう答える余裕がなかった。いけないことを隠れてしていた子供が、大人に現場を押さえられてしまったような心地になっていたのだ。
「え?なんで赤くなるの?」
『い、いやだって…恥ずかしくて』
「どうして?なにも恥ずかしくないよ」
天は、自信満々で言い切って微笑んだ。彼はきっと、私の心中などお見通しなのだろう。アイドルとしてここに立つことが出来なかった私が、皆んなに隠れるようにして 秘密の景色を見ておきたかったこと。
変に取り繕う必要がないのは、気が楽だった。そう。私は、察しの良い彼にはいつもこうして救われて来たのだ。
「本当は…空っぽの客席じゃなくて、満席になった景色を見たいよね」
『そんな贅沢は言いませんよ。それに、空っぽでも凄い迫力でしたから。それで、十分なんです』
「そう。ここはやっぱり、それくらい特別な場所なんだね」
言ってから天は、ゆっくりと全席へと視線を流してゆく。その表情は終始 凛としていて、足元がおぼつくことなど一切ない。あぁ、だから彼は本物なのだろうと私は感じた。
そんな天の隣で、私はそっと目を閉じる。
『本当に…十分です。
私は、こうして想像するんですよ。ステージには貴方達3人が立っていて。ファンが全員でこの客席を埋めるんです。そして、TRIGGERカラー3色のサイリウムが揺れる…。ふふ、幸せです』
「Lioの、イメージカラーは?」
何の予兆もなく、天がその名を口にしたものだから心臓が跳ねた。目を丸くして隣を見ると、彼は小さく肩をすくめる。
「キミのことだから、決めてあったんでしょう?」
『え…っと。白、です』
「やっぱり。だと思った」
くすっと、天は嬉しそうに笑った。