第15章 俺…もしかしたら…、ホモなのかもしれない!
『話があります。これから食事でもどうですか』
「食事か。なんだかもう、胸がいっぱいで…あまり食欲が無いんだ…」
痛いような、熱いような甘いような。モヤモヤとした胸に手をあてて答える。
『食欲が無いですか…それは良くないですね。
ではどうでしょう。一杯だけ付き合ってもらえませんか?』
彼の表情は至って真剣だ。
分かっている。彼がこの顔をしているという事は、きっと仕事の話だ。
でも、今の俺は思ってしまう。
別に仕事の話でも何でもいい。それで彼と一緒の時間を、少しでも過ごせるのなら。
「…うん、勿論 大丈夫」
そんなふうに感じてしまうなんて、これはもう…自分で思っているよりも末期。なのかもしれない。
2人でやって来たのは、もはやお約束の場所。BAR Longhi'sだ。
TRIGGERメンバーや彼と飲む時は、決まってここだった。
とは言っても、2人で飲みに出て来たのは初めての事だった。まさかこのタイミングで2人きりになってしまうとは…。
まさか俺が、春人の顔を見てドキドキしているなどとは。彼は夢にも思っていないだろう。
珍しく今日はカウンターではなく、2人がけのテーブル席に着いた。そして、いつのまに注文したのか。2人分の飲み物をマスターが運んで来た。
彼の前には、ロンググラスが。そして俺の前には、ほこほこと湯気の立つ平皿が。なんと皿の中には赤い液体がたっぷりと注がれていた。
「……変わったお酒ですね」
「『お酒じゃないです』」
見事に2人の声が重なり、俺の言葉は一刀両断された。
「これはトマトスープですよ。さきほど中崎様からご連絡を頂き、十さんの食欲が無いので これを出して欲しいと頼まれましてね」
『マスターのトマトスープは絶品ですから』
優しい湯気の向こう側にいる春人の表情も、なんだかいつもよりも優しく見えたのだった。