第116章 心、重ねて
まさか引き止められると思ってもいなかった楽は、大きくした目をこちらに向けた。
『じ、15分。だけ…』
「…ふ。15分だけ、なんだよ?」
私は、滅多に甘えることをしない。というよりも、相手が楽だと、たちまちどうやって甘えたら良いのか分からなくなってしまうのだ。
そんな私が素直におねだりをしたものだから、楽は続きを言わせたくて仕方ないらしい。意地の悪い笑顔を浮かべながら、言葉の催促をした。
『えっと…15分…撫でる?』
「撫でる」
楽はこくりと真顔で頷いた。
私達は、並んでソファにゆったりと腰掛ける。いまベットに横たわっては、すぐに寝てしまう自信があったからだ。
互いの手の甲が軽く触れると、そのまま大きな手が私の手を攫う。指と指を深く絡めて、きゅっと軽く力を込めた。
瞼を下ろして軽く深呼吸をすると、張り詰めていた心が少し和らぐ心地がした。
楽は、私の頭を優しく自分の方へと引き寄せる。軽く持たれ掛かっているだけなのに、このまま2人の境目が無くなってしまいそう。
ほんの少しだけ顔の角度を上向けて、彼の表情を盗み見る。すると楽もこちらを見ていたので、視線が交錯してしまう。
まだまだ全然見慣れない、目元を緩めたとびきり甘い楽の笑顔。照れ臭くて目線を外そうとするも、それより早く楽は私の前髪を払い、額にキスを落とした。
その柔らかな唇の感触に、顔が熱を帯びる。私は思わず、握り合った手にきゅっと力を込めた。
『駄目だ。やっぱり。癒されない』
「おい!!」
『癒されないけど。ドキドキしっぱなしだけど。楽といたら私は…
幸せ、なんだよなぁ…』
「!!」
今度は楽の頬が赤く染まる番だった。
余裕のある笑顔を浮かべる楽も、ストレートに甘い言葉をくれる楽も捨てがたいが…
今のように、照れのあまり困惑してしまう彼のことも、私は同じくらい愛している。