第116章 心、重ねて
私と千の話し合いは徐々に熱を帯び、やがては口論に発展する。Aパートがどうとか、いやBパートがそうとか、メロディだテンポだと言い合っているその後ろ。楽と百は、声のトーンを限りなく落として会話する。
「あぁ良かった。ユキ、やっと表情に豊かさが戻って」
「豊かさ…?どちからというと、憤ってないすか?」
「あはは。眉間に皺刻んで、暗い顔して俯いてるより全然ハッピーだよ」
「それは、確かにそうですね」
「きっと、あの2人しか存在出来ない世界みたいなものがあるんだろうね。オレには、あんな表情引き出すこと出来なかった。どうしよう、すっごく羨ましい…」
「…羨ましいって、どっちのこと言ってます?」
「!!
えぇと…、うーん…どっちも!!」
「俺は、エリとおんなじ景色見てる千さんが心底羨ましいですよ」
「楽…」
「でも羨ましいって思ってるだけじゃ、いつまで経っても同じ場所に立てない。その、2人だけの世界って奴の中に飛び込んでいくぐらいの覚悟を持たねえと」