第116章 心、重ねて
そして、また数日が経ったある日の夜。私は自分のデスクで、ある男と通話していた。
《 本当に、申し訳ありません!! 》
『いや、岡崎さんが謝ることではないでしょう』
《 し、しかし…!!このまま作業が滞って、うちのせいで武道館ライブに穴を開けるなんてことになってしまえば、自分のクビで済むどころの話ではなくなってしまいます!!あぁあ!!もうどうしたら良いのか分から 》
そこで声はぶつりと切れ、代わりにカガガチャン!!と爆音が鼓膜をつん割いた。おそらくは勢い良く立ち上がり、電話を本体ごと落下させたのだろう。
《 し、失礼しました! 》
『お気になさらず。
それにまぁ、この問題は周りがどうこう焦ったところで仕方ないですからね』
《 それは、まぁそうなんですが…。
あの、中崎さん。もしも御都合が合えば、こちらに顔を出していただくというわけにはいかないでしょうか? 》
『え、いやでも…。私が行ったところで、やはり結局は本人の問題というか』
《 やっぱり…お忙しいですよね 》
『いや、スケジュールの問題ではなく』
《 っ、じゃあ、出向いて下さるんですね!?良かった!じゃあ早速本人に伝えます!中崎さんがこれから会いに来てくれると申し伝えますので気を付けていらしてくださいね!それでは何卒よろしくお願いいたします!》
こちらが何か言葉を挟む前に、あちらの受話器は降ろされた。びっくりするくらい強引にことを運んだ岡崎凛人。あんな彼は見たことがなかった。おそらく、手段を選んでいられないくらい切羽詰まっているのだろう。
私で何か役に立てるならばと、立ち上がりジャケットのボタンを留めた。