第116章 心、重ねて
「うーん、困ったなあ」
龍之介は、あまり困ってなさそうに頭に手をやった。それから、仏のような眩しい笑顔で語り始める。
「絶対に順位を付けなきゃいけないなら、俺の方が絶対に好きだよ?だって、元彼だしね!」
4人は、うっ…!と苦しそうに呻いて、龍之介から一歩後退った。まるで、ドラキュラ達に神父が十字架をかざしたみたいだなぁと、私は呑気に考えた。
「…く、こんなにも無垢な笑顔で元彼マウントをとってくるなんて。お、恐ろしい男です…!」
「なんで俺まで、とばっちりでダメージ食らわなきゃいけねぇんだよ!」
「意味分かんないぐらい悔しいんだけど!?」
巳波、トウマ、悠がそう言った後、虎於はゆらりと身を揺らしながら口を開く。
「くく…。いいカード、持ってるじゃねえか龍之介」
「ご、ごめん。何の話?」
「大層な口をきいてくれたが、おまえ…何か忘れてないか。あんたは俺に、大きな恩義があるはずだ」
その言葉に龍之介は、うーーんと唸り考え込んだ。やがて、あ!と何かに思い当たる。
「このあいだ、俺がスポーツドリンク一気飲みしたせいでむせちゃって、その時に背中さすってくれたアレか!」その節はありがとう
「いや、違う。それじゃない」
突如として飛び出したほっこりエピソードに、私達は口元が緩むのを禁じ得なかった。
「あんたが誰かさんをこっ酷く振った時、ぼろぼろに傷付いたこいつを優しく慰めてやったのは他でもない俺なん」
『御堂虎於』
腹の底から出した声で、私は男の言葉尻を奪う。虎於は錆び付いたカラクリのように、ギギ…とこちらに顔を向けた。
『それ以上、そのことに触れたら…逆モヒカンの刑に処する』
「そ…それは困」
『私の頭を』
「それは困る!!」
当時のこと、龍之介が恩義を感じる必要など一切ない。虎於に大きな恩義があるのは、私だ。
私は、あの時のことを今でもずっと感謝している。そんな恩人の頭が逆モヒカンになってしまうくらいなら、私が身代わりになろうと思えるくらいには。