第116章 心、重ねて
それから数日後。私は、眠たい目を擦りながら荷物をまとめていた。今日はこれから、ツクモプロへと赴く予定だ。目的は勿論、ŹOOĻに会って様子を確認する為。
大きく伸びをして、欠伸をひとつ。自分しか居ない仕事部屋でなら、これくらいの粗末な行動くらいは許されるだろう。
「遅くまでお疲れ様。もう帰り?」
『龍!』
自分しか居ないと思っていた場所に現れたのは、私服姿の龍之介。私が驚きの目を向けると、一応ノックはしたんだよと申し訳なさそうに笑った。
最近ずっと働き詰めで、そしてこれからもしばらく忙しい日が続くであろう彼。今日はそんな中での貴重な休日であるはずなのに、聞けば自主的にダンスレッスンに出て来たらしい。
『休める時には休んでおかないと。さぁ、送りますから行きましょう』
「春人くんも今日はもう帰れるの?」
『いや、私は貴方を送った後にツクモに…』
言ってしまった後に、しくじったと思った。龍之介の顔が、にっこりと輝いたから。
「俺も付き合っていいかな!」
『良くないです』
きっぱりと告げると、彼は途端にしゅんと気を落とした。私に付き添う時間があるくらいなら自宅で休んで欲しいのだと伝えても、龍之介は食い下がる。そして嫌味のない笑顔で交渉を続けるのだ。
「そういえば、この間は天と一緒にIDOLiSH7の皆んなに会いに行ったんだって?いいなぁ楽しそうで!俺も行きたかったよ」
『ふふ。天だけ狡いから、自分も連れて行けって言うんですか?可愛いおねだりですね』
「い、いや!べつにそういう訳じゃないんだけど…!
春人くん疲れてるみたいだし、そんな状態で車の運転は危ないんじゃないかな?代わりに俺が運転するよ。だから、駄目?」
せっかくの優しい申し出だが、私は首を振る。
『駄目』
「えぇ…」
『スタッフが、アイドルの運転する車の助手席に座るなんて駄目に決まっているでしょう?だから、タクシーで行きましょう』
受付のスタッフにタクシーを呼んでもらう為、内線電話の受話器を取る。その後ろで、龍之介は嬉しそうに頬を綻ばせた。