第116章 心、重ねて
「はーい、いらっさい」
砕けた口調で迎え入れてくれた大和。私の来訪は連絡してあったが天のことは伝えていなかったので、彼は目を丸くする。しかしそれはほんの一瞬で、すぐに私達を中へと誘った。
『こんばんは』
「お邪魔します」
私と天の形式的な挨拶に、リビングで作業中だったメンバーが一斉にこちらを向く。しかし陸だけは、まるでそれが条件反射であるかのように天の元へ駆け寄った。
この場にいたのは大和と陸の他に、環と壮五だけ。おそらく他の3人はまだ帰宅していないのだろう。通常の仕事に加えて番宣やレッスンがあるのだ。ハードスケジュールを強いられているのは、何も私達だけではないと思い知る。
「えりりん」
私をこう呼ぶのは、もちろん環である。そんな彼が浮かべる表情は、陸とは正反対の険しいものだった。
「がっくんと…付き合ってるって、本当?」
楽の名前が出た瞬間から、全員の顔から笑顔は消えていた。それは当然の反応だろう。この場にいる私を含めた全員は、環の気持ちを知っているのだから。
誰からその話を聞いたのか。いつ知ったのか。そんなことはどうでもいい。ガラス玉みたいに綺麗な瞳を前に、その場しのぎの嘘なんて吐けるわけがなかった。私は、黙ってゆっくりと頷いた。
刹那、その瞳は大きく揺れる。やがて、きつく瞼が下ろされた。
「そ、っか。分かった…。ごめんな。えりりんは仕事で来たのに、関係ない話して」
『え、いや、そんなの全然…!』
「じゃあ、俺は、部屋で服のデザイン考えっから」
言い終わるが早いか、環は自室に駆け出した。荒々しい足音が、どんどん遠ざかる。
私は、そんな背中に向かって伸ばした腕を下ろした。待ってと、口走りそうになる唇を引き結んだ。