第115章 最高のアイドルを
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時は数日後の昼下がり。場所は八乙女事務所の一室である。私と社長は、来賓達を前に先日の仔細を説明していた。
真剣に資料を見つめるのは、小鳥遊社長。その隣には、同じく真面目な表情の紡の姿もある。
そして、岡崎事務所からは社長である凛太朗、その弟である凛人も出向いてくれていた。さらには、ツクモプロダクションの了と士郎も足を運んでくれた。
そんな、計8人での会議は妙な緊張感があった。しかし、とりあえずの説明を終えるとその空気も少しは弛緩する。
「一先ずの報告は聞いていたけれど、こうしてまとめてもらった資料を見たらより実感が湧いて来るよ。あの子達が、とうとう武道館か…。感慨深いものがあるね」
「ふん。その偉業を成したのは、うちの中崎だということを忘れるなよ小鳥遊」
「あはは。もちろん分かっているよ。八乙女くんは、春人くんが可愛くて仕方ないんだから」
「だっ、誰がそんなことを言っている!私が言いたいのは、武道館でライブが出来るのはうちの手柄だという事実がある限り、ライブではTRIGGERを全面に」
にこにこ顔の小鳥遊社長と、額の横に青筋を浮かべる八乙女社長の言い合いも、もはや見慣れたものである。私と紡が顔を見合わせ苦笑いを浮かべる中、岡崎凛太朗が発言する。
机の上に、指を組んだ両肘を立て、閉じていた瞳をゆっくりと開けながら。わざわざ神妙な空気を作りたがるのは、彼の癖なのだろう。
「ともかく、これでフルフェスへの障害は何もなくなった。後は、完璧なるライブに向けて準備を進めるだけというわけだ」
「あっはは。弱小プロダクションの眼鏡が突然しゃしゃり出て、当たり前のことを言ってるのはとても愉快だ!」
きんと張り詰めた空気。部屋には空調の音だけが、いやに大きくごうごうと響いていた。