第115章 最高のアイドルを
「ほとんど。ということは、それ以外にも決め手はあったのでしょう?」
『決め手などと呼ぶには頼りないんですけど、まぁないこともなかったです』
かつて自分も立ったステージに背を向けて、私はマスターに向かい合う。
『マスターは、ここが密かに何と呼ばれているのか知っていますか?』
「いえ…」
『私も知らなかったのですが、一部の人間はここをこう呼ぶそうです』
“ 武道館に近いハコ ”
『少しライブハウスに詳しい、イケメン事務員と知り合いでして。彼が教えてくれたんです』
こんな呼び方をされる理由は、ひとつしかない。ここでライブを行った歌手やユニットは、後に武道館に立てる確率が高い というものだ。
万理からそれを聞いた私は、すぐにデータを集めた。すると答えは、それが都市伝説でも眉唾でもないことを物語る。
『よく考えれば、当たり前でした。だって、ここは貴方が認めた人間しかライブを行うことが出来ない。それはつまり、実力があり音楽を愛している者が立つ場所だということ。
マスターはこの場所で、実際にその目で見定めていたのではないですか?後に、武道館に立ち得るパフォーマーかどうかを』
彼はイエスともノーとも言わないで、ただ微笑をその顔に貼り付けていた。
「お話はよく分かりました。
それで?貴女が本当にしたい話は、まだこれからなのでしょう?」
『っ、!は、はい! はい!!』
私は、跳ねるように2度大きく返事をした。
『上に戻りましょう。商談には椅子とテーブル、あと美味しいお酒が必要なのですから!』
「商談相手にカクテルを作らせるおつもりですか?まったく、貴女のビジネス観念には呆れたものですね」