第115章 最高のアイドルを
“最高” 責任者などと、大それたものではないと彼は言った。武道館でライブを行うパフォーマーを、全て自分が決めているわけではないと。マスターが言うには、彼のような人間は1人ではなく複数人いるらしい。
あまりにも有名になり過ぎた、武道館という会場。当然のように、利用したいという者や企業が溢れた。
かつては、それこそ最高責任者という立場の人間は確かにいたのだそうだ。今と違い、それはたった1人の人間に任されていた。
「決裁権のある人間が、唯一というのはよろしくありませんでした」
『その “唯一” が腐れば、全てが腐ってしまうから?』
「はい。想像に容易いと思いますが、過去に起こってしまったのですよ。金や名声に目が眩み、自らの利得の為だけに あの場所を利用してしまうトップが」
音楽を、歌手をこよなく愛するマスターにとって、その事実はあまりに辛かったことだろう。
「その人間をなんとか外へと追い出した私達は、唯一という制度を廃止しました。分けたのです。決裁権を持つ人間を」
『その1人が、マスターというわけですね』
彼は頷く。そして、今度は私に質問が投げ掛けられる番であった。
「これを知る人間は、そう多くないはずですが…。中崎さんは、どうやってこの事実をお知りに?」
『友達の協力と、後はほとんどカンですね』