第115章 最高のアイドルを
“ やっぱり、最終的なゴーサインを出しているのは総支配人じゃないみたい。言い方は悪いけれど、彼はあくまで表向きの責任者。裏で強い決裁権を行使している人間は、べつにいるということらしい。
まったく…。これだから大きな組織は面倒なんだ ”
“ あはは。あえて面倒な構図を描いたのかも。擦り寄ってくる人間を上手く躱すには、いかにもそれっぽい影武者を立てちゃうのが有効だしね。
で!オレの方はもう一歩、踏み込んだ情報を入手いたしましたぞ! ”
カランコロンと、ドアベルの音が私を現実へと呼び戻す。どうやら、私以外にいた唯一の客すら店を出てしまったらしい。
丁寧な見送りを終えたマスターと、視線がかち合う。彼は、少し気まずそうに眉尻を下げて笑って見せた。
『珍しいですね。この店がこんなにも空いているなんて』
「買い被り過ぎですね。最近は不景気の煽りで、こういった状況もままありますよ。
しかしながら、私としては これくらい落ち着いてくれている方がありがたかったりします。元々、商売っ気はあまり強くないたちでして。
言ってしまえば、バーの経営は贅沢な道楽なんです」
『……では、せっかくの貴重な機会なので、私とのお喋りに付き合ってもらえませんか?』
“ 武道館のドンは…、東京で飲食店を経営してるらしい。あくまで噂の域は出ないんだけど。表舞台には立たないで自分の店を根城に、音楽の極々近い所にいる。
まぁこれだけの情報じゃ、心当たりも何もあったもんじゃないよね ”
「…なるほど。さきほど貴女が仰っていた、お仕事の話をする相手とは、他ならない “私” だったというわけですね」