第115章 最高のアイドルを
「実質、断られたようなものじゃないか」
千が溜息を吐くのも無理はない。武道館とは、そういう所だ。
金を積めば、誰でもライブが出来るような場所ではない。多額の資金に加え、イベンターが背負うイメージや過去の経歴など、求められる資格は様々だ。
今回は複数の事務所が共同でライブを行う為、資金は持ち寄りとなるだろう。クリア出来ているのは、今のところ その一点のみである。
「諦めたらそこで試合は終了だ。ねぇ百。前に君、武道館の総支配人と飲みに行ったって言ってなかった?なんかない?そういうコネ」
「オレが会ったことあるのは、副支配人だよ。しかも、コネなんて呼べるほどの関わりはないから!
でも、仮にオレが総支配人との強力なコネを持ってたとしても…武道館を押さえるのは不可能だと思う」
武道館のステージに立てる人間の全てを、総支配人が決めている?いや。現実は、そこまで単純で簡単なものではない。
会社の命運を左右する決定を、必ずしも社長が下すわけではないのと同じ理屈だ。トップである社長よりも、実は役員や会長が決裁権を持っている会社など山ほどある。
『餅は餅屋と言いますから。少し調べてみましょうか。ドームやアリーナの支配人達に連絡をとって、どうすれば武道館でライブが出来るか知恵を借りてみましょう』
「そうね。夢のライブの実現に向けて、僕も足搔けるだけ足掻いてみるよ」
「春人ちゃんも協力してくれるの?忙しいのに、大丈夫?」
『忙しいのは、貴方達も同じでしょう。
それに、観てみたいじゃないですか。最高のアイドル16人が、同じステージで歌って踊るんですよ?そんなの、私だけじゃなく皆んなが観たいに決まってる』
口にするだけで、頬が緩んでしまう。そんな私を見て、百と千もまた嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「なんだか良いな。皆んなで一致団結して、ひとつの目標に向かって突き進むのは。これで春人くんも、我が岡崎事務所の一員だ」
「ふふ、たまには良いこと言うな」
「そうそう!一員一員!はい春人ちゃん!これ、うちの事務所の雇用契約書ね!はい朱肉!」
『はい朱肉。じゃないですよ。このギャグをするために、まさかいつもそれ持ち歩いてるんですか?』
私が目を丸くすると、百は ギャグじゃないのにと頬を膨らませた。