第115章 最高のアイドルを
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岡崎 凛太朗。百と千が所属する岡崎事務所の社長で、おかりんの実兄である。
こうして相対するのは2度目だが、アイドル顔負けのスタイルと顔の造形なのは相変わらずだ。
「どうも中崎春人くん。
“君とは” はじめましてだけど、自己紹介は必要ない?」
差し出された右手に自らの右手を合わせながら、苦笑いを浮かべる。
自己紹介など、必要なわけがない。彼は私にとって、大切な恩人の内の1人なのだから。先日、エリとして初対面を果たした際には互いに名刺も交換済みだ。
『勿論です。その節は、大変お世話になりまして』
「それはもういいよ。そもそも大したことしてないし。他の社長ズに比べて影が薄いったらなかったと君も思うだろう?」
彼は唇をつんと尖らせた。これは、もしかして拗ねているのだろうか。もっと目立ちたかったのに、とボヤいているようにも取れる。
「っていうか」
ずいっと、凛太朗は私との距離を詰める。
「君 本当に、あの会見でベソをかいてた女の子?とんでもない化け具合じゃない?どうなってるのか、俺の手でじっくり調べてみたいな」
『……』
自分より20センチ以上も身長の高い男に、近い距離から見下ろされる。それだけでも威圧感があるというのに、加えてこの声だ。
とても低いというわけでもないのに、腹の奥を撫でられるような感覚に襲われる。芯が一本通っているようでいて、飄々とした声。単純に、魅力的だと思った。
『私を凄んでみたところで、貴方には何も得がありません。だったら何故わざわざ私なんかを揺さぶってみるのか。答えは簡単です。
貴方が、人を突いて遊ぶのが好きな人種だから。良いご趣味ですね。仲良く出来そうです』
「……っふ、はは!御察しの通り よく人は突く方だけど、そんな返しは初めてだ。なるほど、面白いな春人くん。
あの月雲了が、わざわざ苦労を買ってまで助けてやりたくなるわけだ」
私は、何も答えずにっこりと顔に笑みを貼り付ける。
「素敵な営業スマイルありがとう。あぁ本当に、君とは仲良くやれそうだよ」
『ありがたい お言葉です。ではそろそろ、社長室へご案内いたします』
凛太朗の軽い靴音が、私の少し後ろからついて来た。