第113章 もう一生、離さない
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下腹に溜まった甘くて重い感覚に、私は瞼を持ち上げる。すると目の前には、眠気を吹き飛ばすに余りある光景が目前に広がっていた。
「おはよう」
『………』
朝日に包まれた真っ白なイケメンが朗らかな笑顔を浮かべ、頬杖を突きこちらを見つめていたのだ。
『な、なんで貴方が朝っぱらから、半裸で私のベットに潜り込んでるんですか!』
「春人になってるぞ。それに、ここは俺のベットだ」
次第に頭が冷えてくる。そうだ、そうだった。私は昨夜まさにここで、目の前の男と愛を確かめ合ったのだ。
「おいおい、本気で忘れちまったのかよ。あんたは昨夜、春人じゃなくてエリとして俺と過ごしたんだぜ?」
『お、覚えてる…』
「覚えてたか。はは、そりゃあ残念だ。もし忘れたって言い張るなら、今から思い出させてやろうと思ったのにな」
『今からとか…あはは。冗談キツいって』
「冗談だと、思うのか?」
怪しげな笑みを口元に湛えながら、ぐいっと顔を近づけてくる楽。私は半ば本気で、キスを求めて迫り来る顔面を阻止した。
その阻止した私の右手の指が、ふと小さな光を放つ。
『え?』
私は勢い良く楽の方に顔を向ける。
「まだ、これは言ってなかったからな。
エリ。俺と結婚してくれ。この命が尽きるまで、エリのことを大事にするって誓うから。だからこの先ずっと、隣にいてくれ」
この、薬指の違和感さえ愛おしい。
胸にじんわりとした喜びが広がって、口が勝手に “はい” と答えた。
私達は、どちらからともなく触れるだけのキスを交わす。それは極々ささやかな、誓いの口付けであった。