第113章 もう一生、離さない
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こんな口付けを覚えてしまっては、これなしでは生きていけなくなってしまうのではと心配になる。
私はそんな中毒性のあるキスにまんまと溺れながら、楽の肩口に手を置いた。
身体をちゃんと拭かなかったのだろうか、そこには僅かに雫が残っていた。浮き出た鎖骨を滑るように移動する雫を、指先で追い掛けて拭う。すると、まるで悪戯を咎められるように その手が捕まえられてしまう。
それから、きゅっと唇を甘噛みされた後に舌先がゆっくりと下唇をなぞる。敏感なそこに与えられる刺激に、ぞくぞくと震えが全身を襲った。
「可愛い」
快感に耐えているのをあっさり見抜かれたのか、楽は口元を綻ばせ告げた。
彼の芸術的なまでに美しい半身は、見慣れているはずなのに。
彼が口にする飴玉みたいに甘い言葉も、初めてではないはずなのに。
どうしてこうも、私の心と体は大袈裟に喜んでしまうのだろうか。
楽は私の唇の端に、親指の腹を滑らせる。おそらく、はみ出た口紅を拭ってくれたのだろう。そして、今度は唇以外の箇所にキスの雨を降らせていく。
全ての場所に、唇で触れないと気が済まないとでもいうように。
耳の後ろから始まり、首筋、鎖骨と、心臓の上辺り。それからまた上に戻り、額に頬、瞼にまで柔らかなそれを押し当てていった。
「エリ…、もっと、あんたに触りたい」
楽は、服で隠れている箇所にもキスがしたいと訴えた。彼がシャツに手を掛けたのと、私が自発的に服を脱いだのはほぼ同時。
薄暗い中だとしても、やはり大きく肌を晒すと強い羞恥が襲った。それに耐えてしばらく待ったが、触感も言葉もやっては来ない。不安になって、強く瞑っていた目を恐る恐る開けた。
楽は、紅潮した頬を手の甲で隠して告げる。
「……ッ、…綺麗だ」