第113章 もう一生、離さない
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私と入れ違いで、楽は浴室へと消えていく。そして再び姿を現した彼は、上半身に何も纏っていなかった。まるで有名な彫刻像のように美しい躰付きに、思わず視線を釘付けにされてしまう。しかし、はっと我に返りすぐに顔を背けた。
「もしかして照れてるのか?今からその調子じゃ、先が思いやられるな。
これからもっと、凄いことするってのに」
『てっ、照れてな』
言い切る前に、ベットの上へ押し倒されるかたちとなってしまう。顎先に指をかけられ、出来るだけ深く口付ける為に角度を何度も変えられる。奥まで舌を差し込まれて、口中を甘く蹂躙されるのは息苦しかった。
あぁそうだ、鼻で息をすれば良いんだ。そんな簡単なことに思い至るのに、少し時間を要した。まるで、自分がどれくらい余裕がないのかを思い知らされたよう。
「……ん、…ッ、ふ」
『っんん……っは、ぁ』
2人して、顔の向きと角度を何度も変えて、互いの唇を貪った。どうやら余裕がないのは、私だけではないようだ。
ようやく唇と唇が離れるときに、僅かなリップ音がする。酸素を肺に送り込みながら、覆い被さった楽を見上げる。彼の唇は、薄い赤で汚れていた。私と同じ様に荒い息を吐き、相手を食い入るように見つめる彼の唇に、ゆっくり指先を這わせる。
『私の口紅が、移っちゃってる…。赤く汚れた楽の唇、なんか、エロい』
「キスで口紅がよれたエリも、相当エロいぜ?」
目元を緩め、頬笑みを向け合ったのも束の間。火照った口元が冷えてきて、すぐに唇が寂しくなってしまう。その寂しさを埋めるように、私達は再び相手の唇を求めた。