第113章 もう一生、離さない
「さすがに、ガッつき過ぎたか。わるい」
それは違うと、首を横に振る。
楽が、私を前に焦ってしまうのは他でもない私に原因があるのだから。
『楽が急いじゃうのは、今まで私が楽から逃げ回って来たからだよね。ごめん、本当に。でも、私はもう逃げたりしないから。楽の前から消えたりしない』
「いや…俺にも原因があるよ。エリに触っても良いって言われて、舞い上がっちまった」
『そうだった?言ったかな?私、触ってもいいって、』
「言ったろ。海で、俺の手を取った。だから、同じことだ」
『ふふ、手を取る前に私のことギュってしたくせに』
「そうだったか?」
楽は言いながら優しく目元を緩めて、私の手に触れた。彼の手にそっと指を絡めれば、自然な流れで唇が落とされる。
『ん…、
なんか、さっきはバタバタしちゃって、ごめんね。処女でもあるまいに、でもなんか私…どうしていいか分からなくなっちゃって』
「へぇ。あんたが、珍しいな」
楽は、目を丸くして極めて近い距離から私を見つめた。
『多分、あれ…なのかな。
す、好き過ぎて、ヤバイ』
自分に対してだけ、少し声と喋り方が丸くなる楽が好きだ。
私がどんな姿で現れても、執念で愛し続けた楽が好きだ。
もう逃げも隠れも言い訳もしない。私は、八乙女楽を愛している。
「……お 前」
『は、はい…』
「シャワーを浴びたいのか浴びたくないのかどっちなんだ?無意識かどうかは知らねえが人のこと思いっきり煽って、俺はもう1秒だって待てな」
『シャワーお借りします!!』
ガバっと襲い来る楽の両腕を間一髪のところで躱し、私は浴室へと一目散に駆け出した。