第15章 俺…もしかしたら…、ホモなのかもしれない!
『…とても良い表情ですね』
私は龍之介の写真が、カメラからモニターに映し出されているのを確認して頷く。
カメラマンは不思議そうな表情だ。彼は私の事をただのモデルだと思っているのだ。そんな私が、仕上がった写真をしげしげとチェックしているのが さぞ不可思議なのだろう。
ちなみにカメラアングルは、私の斜め後ろから龍之介のアップを捉えているので。私の顔は写っていない。
それにしても、本当によく撮れている。写真の中の彼が、動き出しそうだ。ゆっくりと瞳を閉じて…顔を近づけてくるシーンがフラッシュバックする。
私は頭をぶんぶんと振る。ロングヘアーのウィッグが重い…。
「あ、あの、春人く」
『ちょっと、お手洗いに行ってきます』
私は龍之介の呼び掛けには応じず、トイレへと避難した。
今、まともに彼の顔が見れる気がしない。
女子トイレか、男子トイレか。迷った挙句、女子トイレの個室に逃げ込んだ。
便座には座らず、立ったまま 個室の壁に頭を何度も打ち付ける。
『……キス、したよな。絶対』
何度 頭に衝撃を与えても、さきほどのキスの余韻は消えてくれない。
たしかに、唇の先が 柔らかくて温かいものに ちょんと触れた。
『私…TRIGGERの、十龍之介とキ…』
その言葉の続きは、とてもじゃないが言えなかった。ごくんと言葉を飲み込んだ。これ以上 意識するのはまずい。
私は心を落ち着ける。そう。あれは仕事だ。仕事熱心な龍之介が、良い写真が撮りたいが為に 役にのめり込んでしまったに過ぎない。
その結果、とても良い写真が撮れた。それで良いではないか。何も問題は無い。
『…落ちついた』
私は無理くりに自分を落ち着けると、トイレを後にした。