第15章 俺…もしかしたら…、ホモなのかもしれない!
キスの真似事をするだけ。何も本当にキスをするわけじゃない!しかも相手は男だ。こうも緊張する意味が自分でも分からない。
『…十さん?』
彼の綺麗な唇が、俺の名を紡ぐ。それだけで何故か鼓動は余計に加速する。
そうか…彼があまりに女性らしく綺麗に女装したものだから、俺は緊張してしまっているんだ。そうだ。そうに違いない。というか、それ以外に理由など…ない。
『もしかして…緊張してます?』
「!!そ、そんな事…!…あるかもしれない」
見事に心の中を読まれてしまった。
気持ち悪いと思われただろうか。男同士でキスの真似事をするだけなのに、緊張などしてしまう俺を。
『…っふふ、十さんは本当にピュアですね』
笑うと、もっと 可愛くて、綺麗で…。目の前の人がより一層、女の子に見えた。
細められた瞳、上がった口角。なんだろう…なんだかこのまま、吸い込まれてしまいそう。
『!』
ほとんど無意識で、俺は相手の腰に手を回していた。そして空いた手は、その細い顎先をすくう。
俺が背を丸めて、互いの顔の距離を縮めていくと、綺麗な瞳がゆっくりと閉じられていく。
それに合わせるように、俺も瞼をゆっくりと下ろしていく。そして、少しだけ顔を傾ければ…。
あとは…唇と唇が、触れ合うだけ。
2人の唇の先が、少しだけ触れ合う。
その瞬間、俺はやっと現実へ帰ってきた。
「っっ!!!」
え、俺…今、本当にしちゃっ…
くるりと春人がカメラマンの方へ向き直ると、長い黒髪がふわりと広がる。
『撮れましたか?』
「きゅ、急にこっち向くからびっくりした…!あ、でも良い画頂きましたー!お疲れ様でーす」
カメラマンのオッケーがすんなりと出た。っていうから途中から、俺ほとんど記憶が無い…
いや、今はそれどころじゃ無い。寸止めをするつもりが、何故か勢い余って本当にキスみたいな事してしまった!早く彼に謝らないと…
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