第113章 もう一生、離さない
どこに向かうのだろう。窓の外を走る景色を眺めていると、左に座る楽が口を開く。
「わざわざ着替えてくれたんだな」
『え?あ、うん。社長にアドバイスを貰って』
「そうだったのか。べつに、どんな格好をしてても良かったのに。中身があんただったら、俺はそれだけで良い」
『へぇ?じゃあ楽は、春人に愛してるって言える?』
「言えるよ」
『じゃ、じゃあ、春人にキス出来る?』
「出来る」
真剣な顔を前へ向け、ハンドルを握る楽。こうも迷い無く言い切られては、もう何も言えなくなってしまう。
そもそも愚問だったのだ。私はとっくに知っているではないか。楽がLioを、エリもそして春人をも、心から愛していることなんて。
困る楽が見たいと思ってした質問で、自分の首を絞めてしまう結果となった。
もしも取り乱した彼が見られたなら、私は心の平穏を少しでも取り戻せたかもしれないのに。