第112章 幸せでいて
半ば放心状態の楽を置き去りにして、どうして結婚などというぶっ飛んだ結論に至ったのかを社長に説明する。
『当たり前ですけど、熟考の結果ですよ?耳から脳みそが出そうになるくらい頭をひねったんですから』
「自業自得だろう。お前の担当するアイドルが、馬鹿な真似をしたせいなんだからな」
『あはは。どちらかと言えば、貴方の御子息がとんでもない発言をしてくれたおかげですよ』
「出来れば、本人の目の前で責任の擦り付け合いは…やめて欲しい」
いっぱいいっぱいの楽は、なんとかそれだけを呻くように告げた。
気を取り直し、私はようやく肝心の説明を始める。
『今のこの状態を放置すれば、楽はマスコミの餌食です。仕事中もプライベートも関係なく、常に追いかけ回されるでしょう。勿論、好きな人の特定をする為に。その間ずっと、ファンはその嘘か本当かも分からない情報に振り回されることになります』
「それは、俺も本意じゃない。真実を伝えられるならまだしも、他の誰かが勝手にでっち上げた俺で、ファンには傷付いて欲しくないからな」
「それは難しいかもしれん。既に、何の関係もない女優やモデルが、その相手は自分だと名乗りを上げている。売名行為や、あわよくば嘘が本当になればと目論んでいる下らん奴ばかりが溢れているものだ。この業界には」
私は社長の言葉に頷いて、説得力を増すために声を一段大きくして続ける。
『その通りです。
さて。マスコミが楽への興味を失い、無関係者に甘い蜜を吸わせず、なおかつファンの神経を必要以上に逆なでせず落ち着いてもらう。その為に必要な策が』
「結婚、か」
『その答えでは70点です。楽。正しくは…
“一般女性” との結婚。ですよ』