第112章 幸せでいて
予想はしていたものの、その何倍も天気は荒れに荒れていた。社長は、まず私ではなく楽に雷を落とした。応酬される言葉は、さきほど天と楽が既に済ませたものとほぼ同じである。
それから、私の番がやってくる。彼はこちらに鋭い視線を向けたのだ。しかし彼が何か言葉を発する前に、楽が私達の間に仁王立ちした。
「おい。それは何の真似だ」
「見て分からねえかよ。避雷針だ」
「避雷針の真似なら他所でやれ」
「真似じゃねえ!本物の避雷針だ!」
「頭がおかしいのかお前は!」
怒りで我を失いかけている社長。疲れでいつもよりも暴走気味の楽。そんな2人に挟まれて、私は口を開くタイミングを見計らっていた。
しかし。私も、自分で思っていたよりも疲労が蓄積していたのかもしれない。体力的な問題か、はたまた頭を使い過ぎたのか、理由は分からないが。とにかく “それ” を告げるタイミングを、完璧に間違える。
『あの。息子さんを、私に下さい』
掴み合いの喧嘩に発展しかけていた2人は、途端に丸くした目をこちらに向ける。その顔が、まるでクローン人間のように瓜二つだったものだから、思わず吹き出してしまいそうになった。しかし、笑っている場合ではない。これは大切なシーンだ。
『私と楽は2人で、結婚することを決めました』
「「……はあ!?!?」」
『いや、社長が驚くのは分かりますが。どうして貴方まで驚いてるんですか』
「だって、お前…!結婚って、本気か!?そんな話にいつ……、あ。アレか…。いや、待て、流石にアレが本気って誰が思…、新幹線の中だぞ!?あんな、明日ボーリング行こうぜぐらいのノリで…っ」
「……」
(状況はあまり読めんが、息子がとてつもなく不憫だということだけは分かるな)
『そう、ですか。楽は本気じゃなかったんですね。じゃあ結婚しないですか?』
「本気だろ…するだろ…!」
搾り出すように告げた楽を横目に、社長は眼鏡をとって眉間を摘んだ。
それでいいのか息子…。そんなことを言いたいふうに見えた。