第112章 幸せでいて
それから私達は、フェス会場を後にする。新幹線に乗り込んだのは、夜の8時を回っていた。本当なら今日は泊まりで、明日の朝に帰れば良いのだが、スケジュールの関係でそうも行かない。
4人席に座る私達の周りには、他の乗客は見当たらなかった。ファーストクラスの上の、グランクラスを選んだからだろう。
しかし。そんな滅多に乗車することのないハイグレードな席とはいえ、どうしたって気分は上がらない。4人を、なんとも言えない空気が包んでいた。
そんな中、珍しく携帯をずっと触っていた天が、その画面をこちらに向けた。
「見て、これ」
「なんだよ。
……は??ちょっと待て。なんだこれ」
「どうしたの?
……うわあ。酷いな…」
どうやら早速、さきほどの珍事が世間を賑わせているようである。それだけならまだしも、事態はもう少し深刻だ。
楽に好きな人がいるという事実が広まり、その相手は誰なのかという話題でラビッターが持ちきりだ。
その候補として最も有力なのが、現在 楽と月9ドラマで共演中の女優だ。
「的外れも良いとこだろ、これ」
「でも彼女本人が、あぁそういえば心当たりがないこともない…みたいな意味深発言してる!」
「楽が誰にでも愛想振りまくからじゃない?」
「振りまいてねえし、全く身に覚えがねえ!
おい。他の女に愛想なんか振りまいてないからな。俺がそれを振りまいても良いと思える相手がいるとしたら、それはお前ぐらいだ」
『……え?あぁ、何か言いましたか?』
私は、下向けていた顔を上げた。なにやら楽が真剣な表情で何かを訴えかけていたらしいが、よく聞いていなかった。