第112章 幸せでいて
天と楽が出て行って、テントの中は私と龍之介の2人になる。体ごとこちらへ向け、彼は首の後ろに手をやった。そしてしどろもどろで、えっとーとか、その、とかを口にしている。
『ふふ、何をモジモジしてるんですか。そんな良い体躯をしておいて』
「あはは、ごめん。どう切り出したら良いか考えてて」
『前置きはいいですよ。どうせ、私と楽のことについてなんでしょう?』
薄く微笑みそう告げると、龍之介は数回 大きな瞬きをした。
「凄いな!どうして分かったんだ?」
『分かるよ。付き合ってたんだから』
そっか。そう言って、白い歯を見せる龍之介。
照れ笑いなのか、切なさを誤魔化す為の笑いか、嬉しさからくる笑いなのか、よく分からなかった。
『どうせ、楽を選べとか言うつもりなんでしょ?』
「…楽ほど、君のことを愛してる男はいないから」
『龍は、さ…。私が、楽と付き合っても悲しくないの?もう、なんとも思わないの?』
思わないよ。そう言いかけた口を、龍之介は途中で閉ざした。そして、自分の気持ちを確かめるようにしながら改めて言葉を紡ぐ。
「もう、何も感じない、辛くないって言えば嘘になるよ。だって俺は、まだ完全にエリを忘れられたわけじゃない。
それでも、やっぱり君と楽は一緒になるべきだと思ってる」
私はきゅっと下唇を噛んだ後、龍之介を下から見つめて問い詰める。
『どうして。どうして龍は、自分のことよりも私達のことを優先するの。なんでそこまで、出来るの…』
「ははっ、良かった。やっと自信を持って答えられる質問だ!
それはね、自分が幸せになるよりも、もっと大切な願いがあるからだよ」
『龍の、大切な願い?』
「うん。いつだって、心の底から願ってる。
ねぇ、エリ。幸せでいて」